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2 様々な働き方

正社員

 「期間の定めのない契約」で働く労働者のことで,多くの企業では正社員は「定年」まで雇用が保障されています。
 かつては正社員としての働き方が主流でしたが,バブル崩壊後の企業の人員整理,グローバリゼーションや情報化の中で,以下に紹介する非正社員(非正規)での働き方が増えています。こうした流れに伴って,正社員の待遇も変化し,年功による賃金や昇進・昇格を採らない企業も多くなってきています。また,非正社員の増加により,正社員の責任・負担が大きくなり,残業時間の増大,過労自殺などの問題も起こってきています。
 正社員/非正社員の区別だけに振り回されず,企業の労働条件や環境をできるだけきちんと把握することが大切です。

パートタイム労働者

【パートタイム労働者とは】
 パートタイム労働者とは,1週間の所定労働時間が,同一事業所に雇用されている通常の労働者(正社員)の1週間の所定労働時間よりも短い労働者をいいます。アルバイト,嘱託社員,準社員,臨時社員,契約社員など呼び方は色々ですが,正社員より短い労働時間で働く場合はパートタイム労働者(短時間労働者)になります。

【パートタイム労働者と法的保護の経過】
 パートタイムであれ,労働者である以上,基本的には労働基準法が適用されます。ただし,処遇面において正社員とは賃金等,労働条件で低く設定される傾向にあり,正社員との格差が問題になったため,1993年にパートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律)が制定されました。しかし,そのパートタイム労働法も罰則規定がなく努力義務に終わっていたため,充分に機能していない面がありました。
 しかし,経済状況の変化の中で,パートタイム労働者が増えてきました。また,働き方においても,正社員と同じ働き方で基幹的な役割を担うパートタイム労働者も増えています。
 こうした現状を踏まえて,2007年の通常国会で,パートタイム労働法の一部が改正され,2008年4月1日から施行されました。

【2008年パートタイム労働法の主な改正点】
<労働条件の明示・説明義務>
労働条件に関する文書の交付等…これまで努力義務とされてきた明示事項のうち①昇給の有無,②退職手当の有無,③賞与の有無については,文書の交付等による明示が義務付けられ,違反すると10万円以下の過料に処せられます。
待遇の決定に当たっての説明義務…パートタイム労働者の求めに応じて,本人の待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明することが義務付けられました。

<均衡の取れた待遇の確保>
 正社員と同じ働き方をしているパートタイム労働者に対して,待遇において,パートタイム労働者であることを理由とする差別的取扱いを禁止しました。
 正社員と同じ働き方をしているパートタイム労働者とは,①職務の内容,②雇用契約期間,③人材活用の仕組み,運用等において通常の労働者と同一性が認められたパートタイム労働者をいいます。 均衡待遇とは,①賃金,②教育訓練,③福利厚生施設の利用を指します。 事業主に,パートタイム労働者から正社員への転換を推進するため,①募集条件の周知,②配置の希望申出の機会付与,③転換制度を設ける,のいずれかの措置を講じるよう義務付けました。
 さらに,パートタイム労働者の増加や労働問題の増加といった背景を受けて,正社員とパートタイム労働者の不均衡を是正するための法律改正が2015年に施行されました。

【2015パートタイム労働法の主な改正点】
<正社員と差別的取扱いが禁止されるパート労働者の対象範囲の拡大>
先の改正で,正社員と同じ働き方をしているパートタイム労働者に対して,待遇において,パートタイム労働者であることを理由とする差別的取扱いを禁止しました。 この際の条件の内②雇用契約期間の同一性がはずされ,「有期」であっても,①職務の内容,③人材活用の仕組み,運用等が同じであれば,差別的取り扱いが禁止されることになりました。
<パートタイム労働者の納得性を高めるための措置>
事業主は,パートタイム労働者を雇い入れたときは,実施する雇用管理の改善措置の内容について説明しなければならないこととなります。また,パートタイム労働者から事業主が説明を求められたときの説明義務もあります。
<実効性を高めるための規定の新設>
違反した事業主に対して勧告しても事業主が従わない場合,事業主名を公表できます。 無報告や虚偽報告の場合,20万円以下の過料に処されます。
【2020年施行パートタイム・有期雇用労働法の主な改正点】
 2020年4月1日 パートタイム・有期雇用労働法が施行され(中小企業への適用は2021年4月1日),パートタイム労働者だけでなく有期雇用労働者も法の対象となりました。

<不合理な待遇差の禁止>
 同一企業内において,正社員と非正規社員との間で,基本給や賞与などの待遇について,不合理な格差を設けることが禁止されました。どのような待遇差が不合理にあたるかについては,「同一労働同一賃金ガイドライン」(厚生労働省告示)を参照ください。

<労働者に対する待遇に関する説明義務の強化>
 非正規社員は,「正社員との待遇差の内容や理由」などについて,事業主に説明を求めることができるようになりました。一方で事業主には,パートタイム労働者・有期雇用労働者から求めがあった場合には,待遇に関する説明の義務が生じました。
 この際,説明を求めた社員に対して不利益が生じるような取り扱いをすることも,この法律により禁止されています。

<行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続の整備>
 都道府県労働局において,無料・非公開の紛争解決手続きの取扱いが開始されました。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明については「行政ADR」という,事業主と労働者との間の紛争を,裁判をせずに解決する手続きの対象になります。

派遣労働者

【派遣労働者とは】
 派遣事業主(派遣元)が雇用する労働者を,労働者派遣契約を結んでいる他人(派遣先)に派遣して,派遣先の指揮命令に従って労働に従事させることをいいます。
 ・定常型:派遣先の有無に関わらず,常に派遣業者と雇用契約が結ばれている形の派遣
 ・登録型:派遣先があるときだけ,派遣業者と雇用契約が生じる形の派遣

【労働者派遣と請負】
 請負とは,請負業者が注文主と請負契約を結んで仕事を引き受け,自ら雇用する労働者を指揮命令して,仕事を完成させることをいいます。

【派遣が禁止されている業務】
①港湾業務 ②建設業務 ③警備業務 ④医師,歯科医師,看護師等の医療関係業務(ただし,社会福祉施設等で行われる医療業務の場合は,受け入れが可能です。)⑤管理建築士 ⑥士業の一部 ⑦人事労務関係の一定業務

【派遣期間】
 すべての業務において,派遣期間の上限は3年です。

<派遣期間が3年を超える場合> 

派遣先の過半数を占める労働組合等の意見を聴けばさらに3年延長して派遣を受け入れることが認められます。ただし,同じ人を同じ職場の同じ部署で働かせることはできません。

【派遣労働者と法的保護の経過】
 戦後に制定された「職業安定法」では,賃金の中間搾取などを防ぐために労働者供給事業が禁止されてきました。しかし,経済界の要請もあり,1985年に一部の業務に限り派遣を認める「労働者派遣法」(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律)が成立しました。適用対象業務は13業務(ソフトウェア開発,事務用機器操作,通訳・翻訳・速記,秘書,ファイリング,調査,財務処理,取引文書作成,デモンストレーション,添乗,建設物清掃,建築設備運転・点検・整備,案内・受付・駐車場管理等)で,派遣期間は,ソフトウェア開発が1年,それ以外は9ヶ月として認められました。

 その後,規制緩和が進められ,1996年には26業種にまで拡大(後に28業務に再編・追加),2004年には物の製造業での派遣も認められるようになり,派遣社員の人口が大きく膨らむことになりました。

 しかし,派遣先企業にとって契約を打ち切りやすく雇用が不安定であること,正社員との賃金格差といったデメリットが多く,近年派遣法の改正が検討されてきました。
 2012年4月6日に公布された改正派遣法は,2012年10月から一部を除いて施行されています。

 さらに,2015年の改正で,10月1日から「期間に制限のない28業務」の区分が撤廃され,「派遣期間に制限のある業務」と「制限のない業務」の区別がなくなりました。つまり,企業は3年毎に人を入れ替えれさえすれば,どんな業務でもずっと派遣を受け入れることができます。労働者にとっては不安定な3年ごとの契約を繰り返すことになり,法改正には批判も上がっています。悪質な業者の排除のため派遣業者をすべて許可制にしたり,労働者の雇用安定に対する派遣元の責任が義務化されたりしていますが,どこまで雇用の安定につながるかは疑問視されています。

【改正派遣法の概要】
1.日雇派遣の原則禁止
 雇用契約期間が30日以内の派遣は原則禁止されます。ただし,例外として認められる業務または労働者があります。
 例外として認められる業務は,専門知識や経験を有するとして法律で定められた18業務(ソフトウェア開発,機械設計,事務機器操作,通訳・翻訳・速記,秘書,ファイリング,市場調査,財務,受付・案内,デモンストレーション,添乗,貿易(取引文書作成),研究開発,事業企画立案,制作・編集,広告デザイン,OAインストラクション,金融商品営業)です。
 例外として認められる労働者は,① 60 歳以上,②雇用保険法の適用を受けない昼間学生(定時制・休学中などは除く),③生計を一にする配偶者などの収入で主に生活費を賄っており世帯収入が500万円以上ある場合,④本業の年間収入が500万円以上あり副業として就業する者,です。
 なお,間違えやすい例ですが,31日以上の雇用契約を結んだ労働者を,A社へ2週間,B社へ1週間という形で派遣することは問題ありません。

2.グループ企業派遣の8割規制
 派遣会社が同一グループ企業に派遣する割合は,全体の8割以下でなけれなばりません。

3.離職後1年以内の人を元の勤務先に派遣することの禁止
 直接雇用すべき労働者を一旦退職させ,すぐに派遣労働者にする事で労働条件が切り下げられることのないように,離職後1年以内の労働者を離職した元の勤務先に派遣社員として派遣することは禁止されます。

4.マージン率などの情報提供・派遣料金の明示
 労働者が派遣会社を適切に選択できるよう,インターネットなどによりマージン率や教育訓練に関する取り組み状況などの情報提供を義務化します。また,派遣労働者の雇入時,派遣開始時,派遣料金額変更時には「労働者派遣に関する料金額(派遣料金)」の労働者への明示が義務化されます。

 明示しなければならない派遣料金は,次のいずれかとなります。
 1)派遣労働者本人の派遣料金
 2)派遣労働者が所属する事業所での派遣料金の平均額(1人あたり)

5.待遇に関する事項などの説明
 派遣労働者として雇用しようとする労働者に対し,労働契約を結ぶ前に,賃金額の見込み,その他の待遇に関する事項(想定される就業時間・就業場所・教育訓練等),事業運営に関する事項(会社概要等),労働者派遣制度の概要を,書面・FAX・メール・口頭で説明する義務が生じます。

6.有期雇用派遣労働者の無期雇用への転換推進措置(努力義務)
 派遣会社は,雇用期間が通算1年以上の有期雇用派遣労働者の希望に応じ以下のいずれかの措置をとるよう努めなければなりません。
 1)期間の定めがない労働者として雇用する機会の提供
 2)紹介予定派遣の対象として,派遣先企業での直接雇用を推進する
 3)期間の定めがない労働者への転換を推進するための教育訓練等の実施</DIV>

7.均衡待遇の確保(努力義務)
 次のような要素を考えて,派遣労働者の賃金を決定するよう努めること。
 1)同じような仕事をしている派遣労働者の賃金
 2)同じような仕事をしている派遣先の労働者の賃金
 3)それぞれの派遣労働者の職務内容や成果など
 教育訓練や福利厚生等についても,同じような仕事をしている派遣先の労働者との均衡を考えるよう努めること。

8.派遣先の都合で派遣契約を中途解除するときに講ずべき措置
 派遣先の都合により派遣契約を解除する場合には,派遣労働者の新たな就業機会の確保,休業手当等の支払いに要する費用の負担等の措置を講ずるよう,派遣先に対して義務化されました。また,派遣契約に,派遣契約の解除時に講ずる派遣労働者の新たな就業機会の確保,休業手当等の支払いに要する費用の負担等に関する事項を盛り込むことも明示しなければなりません。

9.労働契約申込みみなし制度(2015年10月1日施行)
 派遣先が一定の違法派遣を受け入れている場合,その違法状態が発生した時点において,派遣先が派遣労働者に対して,当該派遣労働者の派遣元事業主における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものと“みなす”制度です。

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 2020年と2021年,非正規労働者と正規労働者の待遇における差異を縮小し,雇用形態にかかわらず同じ労働をする労働者には同じ対価と機会を与える「同一労働同一賃金」の実現を目的として,派遣法の改正が行われました。

【2020年施行派遣法改正の主なポイント】
<待遇を決定する際の規定の整備>
 不合理な待遇差を解消するため,「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」のいずれかの方式により,派遣労働者の待遇を確保することが義務化されました。

<派遣労働者に対する説明義務の強化>
 派遣労働者が不合理な待遇差を感じることのないよう,雇入れ時,派遣時,派遣労働者から求めがあった場合の派遣労働者への待遇に関する説明義務が強化されました。

<裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備>
 派遣労働者に関するトラブルの早期解決を図るため,「行政ADR」という,事業主と労働者との間の紛争を,裁判をせずに解決する手続きが整備されました。

【2021年施行派遣法改正の主なポイント】
 2021年1月の改正
<派遣労働者の雇入れ時の説明の義務付け>
 派遣社員と雇用契約を結ぶ際,派遣会社が実施するキャリアアップ措置(教育訓練やキャリアコンサルティング)の内容について説明することが義務付けられました。

<派遣契約書の電磁的記録を認める>
 派遣会社と派遣先企業との間で締結される労働者派遣契約は,書面による作成が必須でしたが,電磁記録での作成も認められるようになりました。

<派遣先における,派遣労働者からの苦情の処理について>
 今までは,派遣先企業における派遣社員の苦情については,雇用主である派遣会社が窓口となって対応していましたが,改正により,労働関係法に関する苦情については,派遣先企業で誠実かつ主体的に対応することが義務付けられました。

<日雇派遣の契約解除に対する休業手当の支給>
 派遣元事業主は,労働者の責に帰すべき事由以外の以外の事由により,派遣契約の解除がなされた場合,新たな就業先の確保ができない場合には,休業等により日雇派遣労働者の雇用の維持を図るとともに,休業手当の支払い等の労働基準法等に基づく責務を果たすべきことを明確化しました。

 2021年4月1日の改正
<雇用安定措置に係る派遣労働者の希望の聴取>
 これまでも,派遣元事業主は派遣労働者の派遣終了後の雇用を継続させるための措置(雇用安定措置)を講じる必要がありましたが,継続就業を希望する有期雇用派遣社員に以下の希望を聴取し,聴取の結果を派遣元管理台帳に記載することが義務付けられました。

・ 派遣先企業への直接雇用の依頼
・ 新しい派遣先企業の用意
・ 無期雇用派遣への転換
・ その他安定した雇用の継続を図るための措置

<マージン率等のインターネットによる開示の原則化>
 従来より開示が義務化されていた以下の情報を,インターネットで常時開示することが義務化されました。
・ 労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る派遣労働者の数
・ 労働者派遣の役務の提供を受けた者の数
・ 派遣料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を,派遣料金の額の平均額で除して得た割合(マージン率)
・ 教育訓練に関する事項その他当該労働者派遣事業の業務に関し,あらかじめ関係者に対して知らせることが適当であるものとして厚生労働省令で定める事項