本文へスキップ
ボーダー線

内定取り消し


 短大卒業を控えたA子さんからの相談。
 京都市内のS社の就職試験に合格し,採用内定の知らせを受けたが,内定通知後しばらくして「業績見通し悪化」を理由とする内定取消しの通知があった。
 「もう他社からの内定も断ってしまったし,採用活動の時期も過ぎてしまっているのに。困っている。どうしたらよいか。」


アドバイス


 内定とは,入社予定日を就労の「始期」とし,内定取り消し事由が生じた場合には解約できる「始期付き・解約権留保付の労働契約」を意味します。口頭であっても同じ。「内々定」についても,それが行われた状況によっては内定と同様に扱われます。
 判例では,内定取り消しが認められるのは「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる」場合のみに限られ,それ以外は解雇権の濫用となります(「大日本印刷事件」(昭54))。
 不況を理由とする内定取消しの多くは,合理性を認めにくいものです。企業の経営・人事計画にもとづいて一旦は積極的に人材募集・勧誘を行っておきながら,それを覆すわけですが,短期間で採用できなくなる程に経営が悪化することは通常考えられず,また仮に経営状況が悪化したとしても,それを予見できなかった責任は会社側にあり,採用内定取消しが社会通念上相当と認めることが困難だからです。

 内定とその取り消しの証拠(入社日の通知,必要書類提出の案内,研修の案内等)があれば保存し,ハローワークや労働基準監督署で相談しましょう。

<制度上の対応>
 平成21年1月19日「改正職業安定法施行規則等」が公布・施行され,「青少年の雇用機会の確保等に関して事業主が適切に対処するための指針」に採用内定・取り消しについての規定が追加されました。事業主は「新規学校卒業者の採用に関する指針」も考慮に入れ,人材の募集・採用には十分配慮する必要があります。
 また,内々定取り消しについては,最近,損害賠償を認めた「コーセーアールイー事件」(福岡高判平23・3・10),逆に棄却した「ケン・コーポレーション事件」(東京地判平23・11・16)などの判例があります。


「改正職業安定法施行規則等」

 
 概要
(1)ハローワークによる内定取消し事案の一元的把握
新規学卒者の採用内定取消しを行おうとする事業主は,公共職業安定所及び施設の長(学校長)に通知するものとする。

(2)事業主がハローワーク等に通知すべき事項の明確化
新規学卒者の内定取消しを行おうとする事業主は,職業安定局長が定める様式により公共職業安定所に通知するものとする。

(3)採用内定取消しを行った企業名の公表
厚生労働大臣は,内定取消しの内容が,厚生労働大臣が定める場合に該当するときは,学生生徒等の適切な職業選択に資するよう,その内容を公表することができるものとする。公共職業安定所は,管轄区域にある学校に,公表された情報を提供するものとする。

※ 厚生労働大臣が定める場合
内定取消しの内容が,次のいずれかに該当する場合(ただし,倒産により翌年度の新規学卒者の募集・採用が行われないことが確実な場合を除く。)

[1] 二年度以上連続して行われたもの

[2] 同一年度内において十名以上の者に対して行われたもの(内定取消しの対象となった新規学卒者の安定した雇用を確保するための措置を講じ,これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除く。)

[3] 生産量その他事業活動を示す最近の指標,雇用者数その他雇用量を示す最近の指標等にかんがみ,事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに,行われたもの

[4] 次のいずれかに該当する事実が確認されたもの

・内定取消しの対象となった新規学卒者に対して,内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
・内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき


 相談事例集メニューへ⇒