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あいまいな雇用・あいまいな解雇


 相談者のⅠさんの入社は前年の10月でした。面接の時社長から口頭で見習い期間は3ヵ月」と言われ,見習い期間は準社員という地位でした。入社してから数回,社長から「正社員としての採用は来年1月から考えている。その時は正式に給料も決めなければ。」と言われていました。
 ところが1月が過ぎると「前任者との引継もあるし…」とあいまいな返事を繰り返し,Ⅰさんもあまり何度も言うのも気がひけて,なんとなくそのまま6ヵ月がすぎてしまいました。
 Ⅰさんは,6ヵ月間仕事をきちんとこなし,これといったミスもありませんでした。
 さて,6ヵ月を過ぎると,社長から突然「半年ぐらい休んだらどうですか」と言われました。Ⅰさんはいったい何のことかと思いましたが,さらに翌日常務から「昨日の社長の話は遠回しに言ったことで,君のためを思って退職したらということや」と話がありました。なお,この社長から話があった2日前に,なぜか,Ⅰさんに会社の「就業規則」が渡されていました。

 Ⅰさんは,労働基準監督署に相談し,そして労働組合にも相談に足を運び,個人加盟の労働組合に加盟し,会社と団体交渉を行うことになりました。


団体交渉の経緯と決着


 組合員と一緒に臨んだ交渉で,Iさんは,
(1)「「半年ぐらい休め」という理由はなにか」
(2)「半年とは,何月何日から何月何日までか」
(3)「この休んでいる間労働条件はどうなるのか」
(4)「休んだ後,どの職場で,どのような仕事をするのか」
について明確にしてもらえるよう申し入れました。

 その結果,以下の点がはっきりしました。
(1) 社長から面接の時に見習い期間3ヵ月と言われたが,就業規則には6ヵ月と明記してありました。6ヵ月を過ぎてから就業規則を提示する理由はわかりません。
(2) 社長は「半年休め」というのは会社の配慮であり,退職せよという意味だと明言しました。つまり事実上の解雇です。
(3) 解雇理由を問いただすと,「仕事がスムーズに行かない,職場に笑いがない,協調性がない」などでした。
(4) 経営者は,都合が悪くなると,しばしばこのような理由で解雇してきます。これらの理由はいずれも具体性に乏しく,相談例では,社長・経営者の身勝手と想定されるケースが多く見受けられます。
 
 Iさんは,労働組合,弁護士とも相談し,京都地方裁判所への解雇無効の仮処分申請も考えましたが,最終的に,
(1) 解雇は撤回する
(2) 未払い賃金はすべて支払う
(3) 別途解決金を支払う
(4) 3月31日付けで退職する
という内容で決着となりました。

アドバイス

 
 雇用される・する時,賃金,期間,就業場所等の条件をお互いに確認せず,あいまいにしておくと,後でトラブルが起きやすくなってきます。
 労働契約書はありますか?
 就業規則は提示されましたか(又は常時閲覧できますか)?
 確かに,言いにくい,聞きづらいという事情はありますが,勇気を出して早めに会社に聞いておいた方が,万が一のトラブルを考えると賢明です。
 もし,会社から「そんなこと聞いてどうする。なんで知っている。」と聞かれたら,「確か新聞に書いてありました。テレビでもやっていました。うちの社ではどうなっているのかと思いまして。」と言ってください。

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