2001年8月6日

     弁護士  小 林 義 和
      同    川 中 宏
      同    中 尾 誠
      同    宮 本 平 一
      同    高 山 利 夫

第1 はじめに

 学校給食は、児童及び生徒の心身の健全な発達と国民の食生活の改善に寄与することを目的に教育の一環としてなされるべきものである。このことは学校給食法の成立経過に照らせば明確である。1953年、PTA、教職員組合、農林省(当時)が共同して国の責任で学校給食を求める国会請願に取り組み、翌54年6月、学校給食法が成立した。その法案の趣旨説明において、学校給食は、「児童が食という体験を通して生きる力の原点を学ぶ場である。

 教育の一環として学校給食が実地されるということは、児童自らの食体験を通じて食の営みと今日と将来の生活をするところである」とされ、教育の一環であることが明確に位置づけられた。そして、その後学校給食は父母、教員、栄養士、調理員らの共同の取り組みによって、教育の一環として豊かに発展してきた。今日においても教育の一環としての学校給食は、体と心の健全な発達を重視した献立(例えばアトピー食など)や子供たちの笑顔のみえる調理づくり、学校給食に地元産米や農産物を取り入れ、地域の生産との結びつきを強める取り組み、O−157事件や食中毒の発生の危険から子供たちの安全を守る努力など、豊かな実践が続けられている。

 このように、学校給食があくまで教育の一環として位置づけられている以上、その形態は自校直営方式こそふさわしいというべきであり、後述するとおり学校給食を民間に委託することは、学校給食法、職業安定法、労働者派遣法、地方自治法に明らかに違反するものである。

第2 学校給食の民間委託は学校給食法に違反する

1 民間委託は学校設置者の責任放棄である

 学校給食法は義務教育諸学校設置者が自らの責任において学校給食を実施することを義務づけている。

 すなわち、同法第4条は「義務教育諸学校の設置者は、当該義務教育諸学校において学校給食が実施されるよう努めなければならない」としている。

 また、同法第6条1項は「学校給食の実施に必要な施設及び設備に要する経費並びに学校給食の運営に要する経費のうち政令で定めるもの」は設置者の負担とすると定めている。
そして「学校給食の運営に要する経費」について、同条を受けた学校給食法施行令第2条1号は、この経費に「学校給食に従事する職員(学校教育法第28条の規定により義務教育諸学校の置かれる職員をいう)に要する給与その他人件費」が含まれることを明記している。

 これは、学校給食の運営に地方公務員たる職員が従事することを予定した規定であり、民間業者に業務委託することはこの規定上許されないというべきである。

2 民間委託は教育の放棄である

 学校給食法は、学校給食の目的を「児童及び生徒の心身の健全な発達に資し、かつ、国民の食生活の改善に寄与するもの」とし(第1条)、「教育の目的を実現するため」に、関係者に対し、種々の配慮を義務づけている(第2条)。学校給食の調理業務を民間営利企業に委託することは、この教育目的を大きく損ねるものである。

 給食調理員は、日々、子どもたちと接する中で業務に励んでいる。新1年生は給食調理場見学がカリキュラムの一貫とされており、調理員が子どもたちを案内し説明する。自校方式であれば、日常の学校生活の中で、調理員と子どもたちが、「おいしかった、ありがとう」などという言葉を掛け合っている。卒業式の際には、子どもたちから学校給食へのお礼の言葉が述べられ、色紙が渡されることもある。卒業アルバムにも調理員たちの写真が一緒に載せられ、学校給食についての感想文が寄せられることもある。これが、調理員も学校教育に参加している現実の姿なのである。調理業務が営利民間企業によって行われるとすれば、このようなことはなくなるであろう。

 また、自治体当局は、給食は年間190日前後であり、勤務日数、給与水準等から考えると効率的とはいえないとして民間委託を提唱している。

 しかしながら、この論法は、給食のない三季休暇中にも給食調理員が研修・研鑽に励んでいる事実から目を背けるものである。給食調理員は、三季休暇中も出勤し、保健所職員、料理研究家などの外部講師の下で研修し、また掃除、消毒等の業務に従事している。このような研修・研鑽は、学校給食が教育の一環であることからすれば当然のことである。しかし、調理業務が民間委託されて、給食調理時間だけが支払の対象となれば、営利企業である当該業者が、支払の対象外の時間に給食の向上改善のために工夫し研鑽することなどはまず考えられない。当該業者が時間給のパート労働者を使用する場合には、なおさらである。調理業務を民間委託すれば、当該業務はますます機械的なものとなり、教育の目的からどんどん遠ざかっていくことは明白である。

 このように、調理業務の民間委託は、学校給食法の定める学校給食の理念にも反するものである。

 さらに児童の権利に関する条約‐通称「子どもの権利条約」−(1994年(平成6年)4月批准)第3条1項は、「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」と定めている。この条約は国内法的効力を持ち、行政当局者は当然にこれに拘束される。「子どもの最善の利益」を真に考慮するならば、これと矛盾する学校給食の民間委託などと言う選択は出てくる余地はないのである。

 そして、その具体的な実施手続きについては、教育学者から「子供の学校給食については、・・・子供の希望、職員の意見を尊重して給食内容、条件整備をはかっていくことが必要である」との指摘もなされていることを改めて確認すべきであろう(「基本法コンメンタール教育関係法」198頁)。

 児童の権利に関する条約第12条も「児童の意見表明権」を保障している。これは「その児童に影響を及ぼすすべての事項」について及ぶ。学校給食に最も利害関係を有する子どもたちの意見も聞かず、その調理業務の民間委託導入を論ずること自体、この規定に違反するものである。

第3 民間委託は安全な給食提供義務を怠るものである。

 自治体当局の安全な給食提供義務は法律上も当然の義務である。そして、堺市をはじめ、いくつかの学校給食で発生したO−157事件の痛ましい犠牲を通じて、安全な給食を子どもたちに提供するためには、調理員が十分な手間暇をかけて食材を洗い、調理器具等を消毒することが、不可欠であることが確認された。学校給食の安全は何物にも優先する。そして、この安全を確保するためには、経済的効率を多少犠牲にしても、十分な人員を確保することが不可欠なのである。しかし、「安上がり」をめざして民間委託されるということからは、到底それは望めない。

 しかも、問題が発生した場合に、かえって莫大な被害回復のコストを必要とすることは、薬害エイズ問題、公害問題、産業廃棄物問題などをあげるまでもなく、幾多の社会的事例が証明するところである。

 従って、学校給食の安全を第一義的に考える以上、調理業務の民間委託という選択は出てくる余地はないのである。

第4 学校給食の民間委託は請負ではなく派遣である。

 1  自治体当局は、学校給食の民間委託は請負であって、派遣でも労働者供給事業でもないと主張する。

 しかし、たとえ、請負、業務委託などの法形式をとっていても、その実質が派遣や労働者供給事業である、いわゆる「偽装派遣」等の脱法行為が横行しているのが実態である。そこで、労働者供給事業については、職業安定法施行規則第4条が労働者供給事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定め、派遣については、昭和61年4月17日付労働省告示第37号が派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を、それぞれ規定している(その基準は実質同一である)。

 そして、後述する99年法改正の際にも、上記労働者告示を脱法する偽装請負が後をたたないことから、国会の衆参両委員会とも附帯決議として、「請負等を偽装した労働者派遣事業の解決に向けて、労働者供給事業と請負により行われる事業の区分に関する基準についての一層の具体化、厳選な指導・監督を行うこと」を決議した。

 これを受けて、厚生労働省は、上記労働省告示をさらにそれぞれの業務に具体化した「労働者派遣事業関係業務取扱要領(以下、「取扱要領」という)」(平11・11・17職発814号、女発325号)を定め、派遣事業と請負事業とを区別すべき運用基準を具体化した。

 そして労働省告示第37号によれば、派遣ではなく請負だとされるためには、当該契約の実質が、以下の要件のすべてを充たす必要があるとしている。

(1) 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること(職安法施行規則第4条1項2号と同旨)。

 具体的には、

 @労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うこと
 A労働者の労働時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握は除く)  を自ら行うこと
 B企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること

(2)  請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること

 具体的には

 @ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること(同  規則第4条1項1号、3号同趣旨)

 A 業務の処理について・・・法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと(同規   則第4条1項1号、3号と同趣旨)

 B 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具  を除く)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること(同規則4条1項4号と同趣旨)

 上記「取扱要領」は、この要件について、「機械、設備、資材等の所有関係、購入経路等の如何を問うものではないが、機械、資料等の相手方から借り入れ又は購入されたものについては、別個の双務契約(契約当事者双方に相互に対価的関係をなす法的義務を有する契約)による正当なものであることが必要である。尚、機械等の提供の度合いについては、単に名目的な軽微な部分のみを提供するにとどまるものではない限り、請負により行われる事業における一般的な社会通念に照らし通常提供すべきものが業務処理の進捗状況に応じて随時提供されていればよい」旨定め、さらに、製造業務の場合には、「注文主の所有する機械、設備等の使用については、請負契約とは別個の双務契約を締結しており、保守及び修理を受託者が行うか、ないしは保守及び修理に要する経費を受託者が負担していること」を要件として求めている。

 C自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること (同規則第4条1項4号と同趣旨)

 さらに、以上のすべての要件を充たしている場合であっても、それが法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであって、その事業の真の目的が労働者派遣を業として行うものであるときは、労働者派遣事業であると規定している(同規則第4条2項と同趣旨)。

 従って、事業の実質が上記基準に照らして労働者派遣事業や労働者供給事業に当たるのであれば、法形式のいかんを問わず、違法な派遣、労働者供給であると言わねばならない。

 2 現在導入されている学校給食業務の民間委託は、以下述べるとおり、上記労働省告示第37号の規定する区分基準(1)@及び(2)AないしCの要件のいずれも欠くものであって、請負ではなく、労働者派遣事業であることは明らかである。

(1) 請負業者は、労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うこと(上記(1)@)、という要件について

 この要件を充たすためには、自治体職員である栄養士は、調理内容に関して、受託民間業者の代表者に対して一般的な指示ができるにとどまり、当該業者の個々の従業員に対して直接に具体的な指示等がまったくできないということになる。

 ところが、現実には、調理員は、自治体職員たる栄養士の決定する献立に従って、自治体から提供された食材を使用して、調理する。そして、栄養士の指示内容は、単なる献立にとどまらず、決められた栄養価に基づく材料選定から具体的な調理方法に至るまで詳細にわたる。これは学校給食が教育の一環と位置づけられていることからくる必然的なものである。そのため、調理の現場では、栄養士が個々の作業について細目をチェックし、調理員を指揮することが不可欠である。

 これに対し、自治体当局は、栄養士の指示が事前と事後の指示だけで足りるかのような論理を展開しているが、これは給食調理業務の実情を無視した論理である。
自治体当局自身も認めているとおり、給食調理業務はあくまで栄養士の指示に従い、その指揮監督の下で行うべき業務なのである(昭和61年3月31日付文部省体育局長通知「学校栄養職員の職務内容について」においても、栄養職員の指導・助言義務が明記されている)。

 従って、受託民間業者が「労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行う」とは到底言えず、この要件を充たさない。

この点、仮に受託民間業者が調理現場に管理職を置くとしても、それは形式的なものでは許されないところ、この民間業者の管理職が既に述べた栄養士の役割を代替することは不可能であるから、この要件を充たさないことに変わりはない。

(2) 請負業者は、業務の処理について、法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと(上記(2)A)という要件について

 この要件を充たすためには、一般の社員食堂が業務委託された場合と同様、給食調理設備全体を当該業者の管理下に置き、当該業者が全責任を負わなければならないことになる。

 そうなると、施設の衛生管理等についてなされる保健所の検査等も当該業者の責任において対処しなければならないことになり、自治体当局及び学校側は、これに一切関与しないということにならざるを得ないが、そのようなことが現実問題としてあり得るであろうか。

 当然のことながら、現に、自治体当局に管理責任があることを前提に、保健所の検査等には自治体の職員及び学校関係者が立ち会いを求められ、保健所からの詳細にわたる指示、指導が自治体職員に対してなされているのである。

 さらに、食中毒等の事故が起こった場合の責任も当該民間業者が全面的に負うことにならざるを得ないが、そのような結論が社会的に是認されるであろうか。まさに、自治体当局による学校給食事業の放棄とならざるを得ない。

 ところで、給食に関する法令は、学校給食法及び同施行令、実施基準等に規定されている。昭和60年1月21日付文部省体育局長通知「学校給食業務の合理化について(通知)」によれば、学校給食の民間委託を行う場合の留意点として、「イ 物資購入、調理業務等における衛生、安全の確保については、設置者の意向を十分反映できるような管理体制を設けること」とされている。もとより、当然のことであるが、そうだとすれば、当該民間業者が「業務の処理について…事業主としてのすべての責任を負う」とは到底言えず、この要件を充たさない。このことは、文部省通達や自治体当局の主張自体が矛盾に満ちていることに原因があるのであり、現行法制下においては、そもその学校給食業務の民間委託は不可能なのである。

(3) 請負業者は、自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは、器材(業務上必要な簡易な工具を除く)または、材料若しくは資材により、業務を処理すること(上記(2)B)という要件について学校給食の調理に使用する調理設備、器材等はすべて自治体の財産であり、受託民間業者が自ら提供するものではない。水道光熱費はもちろん、作業着、靴までが自治体の負担とされている例もある。結局、当該業者が提供するのは単なる労働力だけである。これは労働者派遣以外の何者でもない。

 実際、民間委託の際に作成された仕様書には受託民間業者が調達するものを規定している例があるが、それはすべていわば「業務上必要な簡易な工具」と言うべきものである。

 また前記のとおり、「取扱要領」は、機械、資材が相手方(注文主、委託者)から提供される場合、請負ないし委託契約とは別個の双務契約(契約当事者双方に相互に対価関係をなす法的義務を保す契約)による正当なものであることが必要であると規定している。しかし、実際には行われている学校給食の民間委託については、調理室、その設備、器材等は、委託契約書と一体をなす仕様書において無償にて自治体から業者に使用を認める内容になっており、上記「取扱要領」の定める別個の双務契約による正当なものになっていない。

 さらに、上記「取扱要領」は、前述のとおり、製造業務の場合には、注文主の所有する機械、設備の使用については、保守及び修理を受託者(業者)が行うか、その経費を受託者(業者)が負担していることを要件として定めているが、実際に行われている学校給食の民間委託においては、注文者ないし委託者である自治体が給食施設、設備、器具等の保守及び修理を行い、その費用も自治体が負担している。

 従って、学校給食の設備等の使用関係の実態は明らかに前記「取扱要領」に違反している。

 学校給食法第6条1項は「学校給食の実施に必要な施設及び設備に要する経費並びに学校給食の運営に要する経費のうち政令で定めるもの」は設置者の負担とすると定め、同法施行令第2条2号は、この経費の一つに「学校給食の実施に必要な施設及び設備の修繕費」をあげている。これらの規定を前提とする限り、「学校給食の実施に必要な施設及び設備に要する経費」を受託民間業者が負担することはあり得ないことになる。

 このように、現行法制下においては、そもそも、受託民間業者が調理設備、器材等を自らの責任と負担で準備し調達することは不可能であり、調理業務の民間委託がこの要件を充たすことはあり得ない。

(4) 請負業者は、自ら行う企画又は、自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること(上記(2)C)という要件について

 学校給食においては、前述のとおり、自治体職員である栄養士が作成する献立に従って調理作業が行われており、ここにいう「自ら行う企画に基づいて業務を処理する」とは到底言えず、この要件を充たさない。

 また、この要件が派遣と請負とを区別する基準である以上、ここにいう「専門的な技術若しくは経験」とは、相当に高度な「専門的な技術・経験」に限られると解すべきである。ところが、学校給食の調理業務は、繰り返し述べているとおり、自治体職員である栄養士の作成する献立に従い、自治体によって詳細に決められた作業手順に従って調理するものであり、特殊な機械や調理方法を用いるわけでもないから、とうてい「専門的な技術・経験に基づいて業務を処理する」とは言えず、この要件を充たさない。自治体の職員としての給食調理員が、地公法第57条にいう「単純労務職員」とされ、現実に、職務規程及び賃金体系においても、同様に取り扱われている事実は、このことを裏付けている。

 この点、自治体当局は、限られた時間内に日々の献立表に示されたとおりに大量に調理作業を行うことをもって専門的な技術・経験と主張しているようであるが、そうだとすれば、今日の社会においては、およそ、あらゆる業務が専門的技術・経験を要するということになり、あらゆる業務において違法派遣・労働者供給はあり得ないということになって、この告示が「専門的技術・経験」を要件にあげた趣旨に著しく反する。

 また、受託民間業者が学校給食調理員としての経験のないパート労働者を使用することも十分に予測されるのであって、その専門性は一層乏しくなる。

 以上のとおり、調理作業は、この上記要件にいう「企画若しくは専門的な技術・経験を必要とする作業」とは到底言えず、上記要件を充たさない。

 3 以上の通り、現在、自治体当局が計画を進めている給食調理業務の民間委託は、明白な派遣であって、労働者派遣法の制約を免れないものである。
そして、自治体当局が、労働者派遣法による制約を無視して民間委託を実施することは、法令を遵守すべき自治体の立場と明らかに反することになる。


第5 学校給食の民間委託は職業安定法及び労働者派遣法に違反する

 1 職業安定法及び労働者派遣法による規制について

 労働契約の基本原則は直接雇用であり、これに反する派遣・労働者供給は、中間搾取の禁止の観点から、原則として違法とされている。即ち、職業安定法(以下職安法という)第44条は、「何人も、…労働者供給事業を行い、またはその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはらない」と定め、違反行為は処罰の対象とされている(同法第64条4号により1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。これに対する例外としては、唯一労働組合等が厚生労働大臣の許可を得て行う、無料の労働者供給事業のみが認められている(同法第45条)。

 この労働者供給事業に含まれる労働者派遣については、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以下、労働者派遣法という)が、従来「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」、「就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務」として26業務につき限定して認めていたが、同法は99年7月改正され、法が定める一定の業務を除き、すべての業務が派遣可能な業務となった。

 しかし、改正前の労働者派遣法においては、給食の調理業務は上記26業務に含まれておらず、改正後も「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」等として同法施行令第4条が定める26業務には含まれていない。

 しかも、99年法改正において、「物の製造の業務」については、当分の間、派遣が禁止されている(労働者派遣法付則第4項)

 2 学校給食の調理業務は「物の製造業務」に該当する疑いがある

 当分の間、派遣禁止業務とされている「物の製造の業務」とは、「物を直接融解、鋳造、加工し、または組立て、塗装する業務」等を意味するとされている。上記「物」には限定がなく、食材もこれに含まれることに加え、「加工」の内容、方法にも限定がない。従って給食の調理業務も上記「物の製造の業務」に該当する疑いがあり、改正法によっても派遣が禁止されている疑いがある。

3 派遣が可能としても、1年を超えて学校給食の民間委託はできない

 また、99年改正により新たに派遣の対象として認められた業務は、基本的には臨時的、一時的な労働者の需給調整のためのものであって、常用労働者を派遣労働者に置き換えるものではないとされることから、労働者派遣法は、派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元事業主から1年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならないと規定している(同法第40条の2・1項)。

 この派遣受け入れ期間の制限については、法が「派遣先は、1年を超える期間継続して派遣の提供を受けてはならない」と規定している以上、派遣労働者を変えても、派遣会社を変えても、1年という期間の制限を免れるれることができないものである。

 学校給食の調理業務は、本来「臨時的・一時的」な業務とは言えず、派遣の対象とすることが本来適当でないというべきであるが、改正された労働者派遣法によっても、学校給食の調理業務が通常「就業の場所ごとの同一の業務」として遂行されるものである以上、派遣労働者を利用して1年を超えて実施することができないものである。

 そして、労働者派遣法は、派遣先が、派遣受入期間1年の制限のある業務について1年を超えて派遣の役務の提供を受けている場合、厚生労働大臣は、派遣先に対し、指導、助言することができ、派遣先が、派遣受入期間1年の制限のある業務について1年を超えて派遣の役務の提供を受けている場合に、当該派遣労働者が派遣先での雇用を希望しているときは、厚生労働大臣は、当該派遣労働者を雇い入れるよう指導、助言をすることができる旨定めている(同法第48条1項)。派遣先がこの厚生労働大臣の指導、助言に従わない場合には、さらに勧告を受け、勧告にも従わない場合には、厚生労働大臣はその旨を公表することができる(同法第49条の2・2,3項)。

 また、派遣先は、派遣就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元から継続して1年間派遣労働者を受け入れていた場合に、引き続き同一の業務に従事させるため、労働者を雇い入れようとするときは、その同一の業務に1年間従事した派遣労働者を雇い入れるよう努めなければならないとされている(同法40条の3)。

 そして、派遣元が派遣期間の制限に違反して派遣した場合には、派遣元事業主は30万円以下の罰金に処せられる外、許可取消、事業停止、改善命令の対象となる(労働者派遣法第61条3号、同法第35条の2)

4 上記のとおり、学校給食の民間委託については、「物の製造の業務」として派遣が禁止されている疑いがある上、仮に派遣が可能としても、労働者派遣法の規制を受け、1年を超えて実施することができず、1年を超えて実施すれば、労働者派遣法及び職業安定法に違反することになる外、雇い入れを希望する労働者を雇用する等の責務が生じることになる。

第6 調理室等の貸与は、地方自治法に違反する


 1 自治体財産の使用の制限について

 地方自治法(第237条以下)は、自治体の財産の管理及び処分について一定の制限を設けている。これは、健全な財政運営を図ると共に、公共の財産の恣意的な運用を防止することを目的とするものである。

 学校給食の業務を民間委託するにあたって、それまで自治体において使用していた調理室、設備、厨房機器・備品などの一切を、受託民間業者に無償で使用・貸与することが多く行われている。

 調理室等の関係「財産」の地方自治法上の区分は、次のとおりである。

 @調理室−公有財産→行政財産→公用財産
  公用財産とは、「自治体の事務、業務の用に供するもの」である。
 A設備 −公有財産→行政財産→公用財産
  但し、設備が調理室(不動産)の従物でないとすれば、設備は「物品」となる。
 B厨房機器・備品−「物品」

  「行政財産」について、原則は貸付禁止であり(第238条の4)、例外的に、行政財産の「目的又は用途」を妨げない限度で、「使用の許可」(第238条の4・4項)が認められている。その際、「使用料を徴収することができる」(第225条)。なお、無償の使用許可も禁止されていない。

 「物品」の管理・処分は政令で定めるが(第239条4項)、貸与は、原則自由であり、契約によって行い、無償の貸付もできることになっている。

2 行政財産の使用許可

 行政財産たる@調理室(設備が調理室の従物の場合はA設備も含む)の本来の目的・用途は、自治体の業務・事業として学校給食の調理、食器の洗浄などを行うためのものである

 しかし、受託民間業者に「使用許可」することにより、その業者が調理室を排他的に使用することになり、その行政目的として定められた「本来の用途」を妨げるものとなっている。よって、このような使用許可は、法第238条の4・4項に違反し違法なものである。

 ちなみに、結婚の挙式及び披露宴の事業等を目的・用途とする行政財産たる市民会館を、市長が(結婚式を行う)民間業者に対し、同一の事業を行うために使用することを目的として目的外使用許可処分したことにつき、右処分は、市民会館の用途を妨げるものであるとして、法第238条の4・4項に違反するとして、右許可処分を取り消したものがある。(浦和地裁昭61・3・13判決・確定、判例時報1201号72頁)

 行政財産である市民会館を調理室、目的・用途である「結婚の挙式及び披露宴の事業」を「学校給食の調理、食器の洗浄などの業務」と置き換えれば、同様の結論になるものである。

 3 無償の貸与

 先に述べたように、確かに地方自治法等は、使用許可ないし貸付契約において、使用料を徴収することを義務づけてはいない。しかし、使用料を徴収することは可能であり、調理室等の使用は、受託民間業者の営利目的のためであり、公共の財産である調理室等の使用について無償とする必要は全くない。

 使用料を無償とすることは、自治体の財産の活用ないし保管方法として、地方自治法の趣旨に反し、違法なものである。

 4 まとめ

 以上のとおり、民間委託に際して、受託民間業者に対し調理室を貸与すること、および、調理室、設備、厨房機器ないし備品の貸与を無償とすることは、地方自治法に違反し許されないものである。

第7 おわりに

 以上、学校給食の調理義務の民間委託は、学校給食法に反し、派遣が禁止されている「物の製造業務」に該当する疑いがある上、派遣期間(1年)の制限を越えて実施することが当然予定されており、労働者派遣法及び職業安定法に違反し、さらには、調理室等の貸与は地方自治法にも違反するものである。

 貴自治体及び学校関係者におかれては、以上の趣旨をふまえた上で、学校給食調理義務の民間委託を中止あるいは撤回されるよう、求めるものである。