自治体労働組合からのIT革命への提言(案)
住民主体の「IT革命」をすすめるために

-- 2001年7月 京都自治体労働組合総連合 自治体情報化問題検討委員会 --


目 次

はじめに

1.政府が推進しているIT革命の流れ

(1) IT(インフォメーション・テクノロジー)革命の構図
(2) 国民的な討議や合意のないIT革命に警鐘の声も

2.電子自治体づくりの現実

(1) 京都市の「e-京都21」をはじめとする、「e-Japan 戦略」引き写しの計画の持つ問題点
(2) 自治体間格差と財政問題は激しくなる

3.ほど遠い、住民のための「電子自治体・IT政策」

(1) 強調される利便性と、投資ほどの効果が見えてこない地域情報化
(2) 京都府内自治体ホームページ評価…自治体は「e−デモクラシー」に焦点を

4.情報化に対する、自治体の責務

(1) 自分の情報が「どのように使われ、それについて意見を言える権利」をどう守るのか
(2) 情報化社会になっても、住民が多様な手段で情報を手に入れられる実態をつくることが、自治体の責務

5.急速な情報化で苦悩する現場

(1) 長時間労働とはけハケ口のないストレス…ネットワーク管理者の悲鳴
(2) 自治体の現場では
(3) いまだ大きな課題として解決を迫られていること

6.「電子自治体」づくりに対して住民と共同して点検活動をすすめよう

(1) IT政策や方針に焦点をあてた、議会の開催や住民説明会などの開催を
(2) 自治体は情報化の本当の利便性を積極的に使う論議と研究を、そして、
住民がITを住民主体に活用するための府民運動を
(3) 住民基本台帳の全国ネット実施期限を延長または白紙にもどして、
   国民的議論をすすめるよう国に求めよう
(4) 「IT」技術で「するべき施策」と「してはならない施策」、持ってない人への支援
(5) ITの地域産業への活用は、地域の要望から計画と実行を
(6) 住民検診にもVDT検診を加えるなど、府民運動に自治体労働組合が積極的に役割を果たそう


はじめに

京都自治労連「自治体情報化問題検討委員会」は、昨年7月に「自治体情報化問題についてのルールづくり(素案)」を発表し、情報化政策が住民生活向上と地方自治の前進となるよう、人権としての個人情報保護基準をはじめ、自治体での情報活用の自主権や自治体労働者の健康や働く権利の保障などのルールづくりが不可欠という立場の討議資料を発行しました。
その後、政府経済政策の最大の柱として「IT革命」戦略が非常な勢い進みはじめ、莫大な投資の計画が進展しています。超高速オンライン網の整備やパソコンの大規模な普及などのハード面でのインフラ整備や、住基のオンライン化を中心に、住民の個人情報など自治体情報の利用と住民へのIDカード発行とカード利用などの計画が次々と実行に移されようとしています。
ルールづくり(素案)でも指摘したように、このような急速な情報化が住民の生活に役立つのか、住民の人権が守られていくのかなど、民主的検討や議論・規制の方法などが置き去りにされたままという危惧はぬぐい去れません。
住民サービスの向上と住民の権利を擁護する自治体労働者の立場から、実際の情報化業務をすすめているいくつかの自治体で、組合員や担当職員からのレクチャーも受け、また現場の視察も行う中で本報告書をまとめました。本報告には不十分さや限界がありますが、IT革命についての一定の考え方や、情報化の中でとるべき指針(職場政策づくり)づくりのために、本報告が職場と地域で生かされることを切に望むものです。


1.政府が推進しているIT革命の流れ

(1) IT(インフォメーション・テクノロジー)革命の構図

【1】 2000年12月1日に閣議決定された行革大綱は、IT革命の一環として「4)行政事務の電子化、窓口の利便性の向上等を図ることによる国民本位の質の高い行政サービスの実現を目指し、今後、2005年までの間を一つの目途として各般の行政改革を集中的・計画的に実施する」としています。すでに、2000年8月28日に 「IT革命に対応した地方公共団体における情報化施策等の推進に関する指針」が出され自治体内での1人1台のパソコン普及やペーパレス化の推進を明らかにし、広範囲な情報ネットワーク化が動き始めています。
2005年の3月までを法律的な期限にと、「電子自治体づくり」と同時期に符号を合わせてすすめられている市町村合併は、電子自治体づくりと合わせ、これまでの自治体のあり方を大きく変えるものであることは間違いありませんが、合併によるサービス低下の補完としての「IT化」などではないはずです。こうした中で、IT革命による技術革新が住民のくらしの向上や、住民自治の発展に寄与できる道をさぐることは、自治体労働者に求められる大きな課題です。

【2】 IT革命は、今政府の政治・経済政策の最大の柱となっています。2001年度のIT関連の政府予算案を見ると、総額約1兆9,961億円にのぼります。
2001年1月22日発表された「e-Japan 戦略」(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)には、早急に革命的かつ現実的な対応が必要として「知識創発型社会を実現するために、我が国は新しいIT国家基盤として、1)超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策、2)電子商取引と新たな環境整備、3)電子政府の実現、4)人材育成の強化、の4つの重点政策分野に集中的に取り組む必要がある。」と述べています。
こうした中で、自治体へのIT政策も次々に打ち出され、住民基本台帳の全国ネットワーク化を契機に行政 ICカードによる諸証明の発行、郵便局等での証明発行業務、福祉や医療などのリンク、そして民間金融機関とのリンクを上乗せするなど、住民への利便性の向上をはかるとして、一挙に具体化しようという流れです。
【3】 国の動きの系譜など
*1999年12月…ミレニアム・プロジェクト
  2003年までに、民間から政府、政府から民間への行政手続きをインターネットで利用、ペーパレスで電子政府の基盤構築
*2000年8月…IT革命に対応した地方公共団体における情報化施策等の推進に関 する指針(自治省)
  ミレニアム・プロジェクトに合わせ、地方公共団体の電子化をはかる。地域の社会・経済活動の活性化に資するため情報基盤の整備にとりくむ。
*2000年11月(成立)…高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)
  高度情報通信ネットワーク社会形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進することを目的。
*2000年12月…「IT革命」アクションプラン
  IT基本法にもとづく、具体的な実施計画
*2001年1月…e-Japan 戦略
  5年以内に世界最先端のIT国家をめざし、超高速インターネット網の整
備とインターネット常時接続の早期実現、電子商取引ルールの整備、電子政府の実現、人材育成など目標。
*総合行政ネットワーク(LGWAN)
  2001年度〜本格的な導入にむけたとりくみ開始。国及び地方公共団体を相互に接続、行政サービスの基盤や、個人・組織の認証などの機能を実現する。
*住民基本台帳ネットワーク
  2002年8月〜住民票の写しの広域交付、転入・転出手続きの効率的な処理、電子申請やワンストップサービスの基盤。
*公共事業支援統合情報システム(建設CALS/EC)
  2004年度〜公共事業の調査・計画、設計、入札、施工及び維持管理の各事業プロセスで発生する情報を電子化。段階的に電子入札、申請、届け出のオンライン化を実現。

(2) 国民的な討議や合意のないIT革命に警鐘の声も

【1】 「IT革命はけっしてバラ色のものではない。」吉川元忠神奈川大学教授は、2000年7月号の『文藝春秋』に こんな小論を掲載しました。
吉川氏は、IT革命にはさまざまな側面があるが、中心と目されるのは電子商取引だと指摘し、「この電子商 取引は大きく2つに分けられる。1つはBusiness to Consumer(B2C)で、企業と消費者をむすぶ電子商取引。もう1つはBusiness to Business(B2B)、企業と企業をむすぶ電子商取引である。B2Cの
代表的な存在がアメリカのインターネット書籍販売会社のアマゾン・ドット・コムだ。日本におけるB2C市場は、通産省の調査によると99年が約2000億円強の規模で、これが2002年には2兆円を超え、2004年には6兆円になると予測されている。」と述べています。
しかし、「陰の部分として指摘される『DD』(デジタル・ディバイド=情報格差がもたらす経済格差問題)に加え、もう1つの『DD』、デジタル・デフレが脅威をもたらす」と強調しています。「ネットを使ってのグローバルな価格のたたきあい、究極的な最安値をオファーする以外、企業にとって勝ち目がなくなる。そして事実上の『1物1価』へと世界の物価を引き下げていく。これが私のいう『デジタル・デフレ』なのだ。IT革命がはらんでいるデフレ圧力をどう克服するか、日本経済にとって課題は大きい。」としています。
また、ジャーナリストの斉藤貴男氏は、「プライバシー・クライシス」(文春新書)などの著書で、住民IDカード化などの推進に対して「人間に対しても『徹底した管理こそ愛情』と考え、そうすることに悦びを見いだそうとする人々が、この国の社会には確かに存在する。このままでは、日本人は犬にされてしまう。」と財界や政府関係の、情報化への具体的な青写真を示しながら、とんでもない管理社会になるのではという危惧を訴えています。

【2】 第2の産業革命になぞらえ、IT革命を財界や政府が最大の推進役となり、社会的にも推進大合唱という状況です。しかし、そうした動きとは裏腹に、住民にとってなにが変わるのか、役立つのか、プライバシーをはじめとした人権は守られるのかは見えてこない段階です。しっかりとした「ルールづくり」は始まったばかりと言えます。今日、革命的な情報技術の発展を、人間が人間のために役立つようにコントロールするための仕組みを確立することが、求められているのではないでしょうか。東京都三鷹市が、住民基本台帳ネットワークシステ ムについて「法整備(個人情報保護)は不十分。自治体の懸念
や住民の不安を解消してほしい」とする要請書を総務省あてに提出したことや、東京都杉並区が住民基本台帳ネットワークシステムへの考えを問うのアンケートを実施するなど批判的立場をとってきたことを京都府の市町村もよく検証すべきです。

2.電子自治体づくりの現実

(1) 京都市の「e-京都21」をはじめとする、「e-Japan 戦略」引き写しの計画の持つ問題点

政府の「e-Japan 戦略」などの引き写しという画一的な実行で、はたして本当に「すべての国民が情報通信技術(IT)を積極的に利用し、かつ、その恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現」ができるのかという疑問や住民のプライバシーなどの基本的人権の保護、自治体財政問題との関わりなど多くの疑問が生まれています。

【1】 京都自治労連の自治体ヒアリングでも、急速な普及に伴う基盤整備や職員対応、セキュリティ対策等々の苦悩が出されました。同時に、京都府では、1人1台パソコンの設置や府庁内LANの整備などをすすめていますが、「IT革命」計画の具体案はあいまいです。政令市の京都市は2001年5月に「e-京都21」計画を発表しています。また、各自治体もパソコン普及をすすめながら、とりくみや計画概要などを作り始めた段階です。
現状では、自治体業務内での行政情報についてのLAN化やパソコンの普及についての方針確立と実施がすすみ始めています。しかし、自治体の持つ方針としては、住民の利便性向上や「ITの恩恵を享受できる社会」という抽象的な目標が掲げられていますが、自治体ならではの、その地域にあった地域住民の生活に生かす道や、情報化についての住民の権利を確立する課題などは、その検討やビジョンがほとんど示されていないのが実態です。

【2】 「電子自治体づくり・自治体IT化」での特徴は、各自治体の首長や理事者が、国がやろうとしていることがどういう変化をもたらすのか、地方自治体の行財政にどういう影響を与えるのか、ほとんど掌握しないまま職場や学校にパソコンを大量に配備し、安易にインターネットと職場のパソコンを接続したりしていることではないでしょうか。住民基本台帳ネットワークが「霞ヶ関WAN」と呼ばれる中央省庁スーパーコンピュータネットワークに接続され、10桁の個人番号を付けて個人情報を流すことに何らの問題意識ももたず、一方では市町村合併を模索しつつ統一性のない情報化をすすめ、途方もない重複投資をやろうとする自治体も少なくありません。ただ時流に乗って「IT化」(そもそもIT化とも言えないが)をすすめることに、住民の側からの監視が必要となっています。

【3】 また、総務省の「アクションプラン」の中に、地理情報システム(GIS)の普及・促進が盛り込まれています。これは、車に設置されているナビゲーター(GPS)のイメージと違って、自治体が保有している住民基本台帳はもとより、税、健康保険、年金、道路管理、水道、ガス、都市計画、防災情報などあらゆるデーターベースを規格化して、三次元での地理情報として統合しようというものです。防災や地域政策づくりに有効な力を発揮すると考えられますが、それに、企業や大学も参加させて共同利用をすすめようというもので、個人情報がどうなるのか、自治体の主体性はどうなるのか、莫大な財政負担はどうなるのか、実験段階にしかすぎません。
現在、自治体内部でも個人情報の目的外使用が問題となっているなかで、住民にとって何が利便なのか検証されないまま、しかも観光案内システム程度の認識で、あらゆる個人情報を統一化するという地理情報システム(GIS)の普及・促進については、検討・住民合意なしにすすめることは極めて危
険です。

【4】 情報化は、市町村合併がともなうなら、導入時期によっては二重、三重の無駄な支出をともなうほか、行政に混乱をもたらすこともあるのではないでしょうか。初歩的な市町村合併の段階でも、コンピュータにまつわるトラブルが発生しています。浦和、大宮、与野の3市が合併した「さいたま市」では、初日の5月1日、ホストコンピュータのデーターの一部が欠落して、戸籍全部事項証明(戸籍謄本)と戸籍一部事項証明(戸籍抄本)の2種類が交付できなくなり、市役所に電話がつながらないというトラブルが発生しています。

(2) 自治体間格差と財政問題は激しくなる

いま、IT革命の名の下で莫大な投資が行われようとしています。しかし、小規模町村や過疎地、中山間地をかかえる自治体では様々な試行錯誤や混乱を含みながら、「世の中の流れ」に取り残されまいとして必死の取り組みがすすめられていますが、次のような点で大きなハンデを背負っているといえます。

【1】 現在、様々な方法でインターネットアクセスの高速化が図られてきていますが、都市部近郊を除く多くの町村ではそれらの整備は遅々として進まず、ようやくISDNが可能になった地域も多く、ADSLなどのサービスはいまだ明確な方針もなく整備される保証もありません。自治体自らがCATVを張り巡らして、独自のTV放送を配信しながらその回線をインターネットにも利用しようとする事例も見られますが、自治体の負担(初期投資および維持管理)が大きく、多くの町村では現実的に取り組めないのが現状です。
財界などからは「規制緩和」によりインフラ整備が進むとの主張もありますが、構想の基盤となる「超高速ネットワーク」インフラの整備は困難で、しかも高コストです。中山間地の集落などは、整備のコストパフォーマンスがきわめて悪く、民間の事業者にまかせるばかりではとうてい整備はおぼつかないのが現状です。

【2】 「住民基本台帳全国ネットワーク」やICカードシステムの導入、庁内LANの整備による住民情報の共有化など、現時点でも高度に組織化された「行政」の情報化は、その是非は別にしてすすめていくことに技術的、社会的な困難は少ないと思われます。しかし、「地域の情報化」といわれる「住民生活の情報化」、「産業活動の情報化」などについては、多くの課題や問題点が山積しており、その実現はもとより喧伝されている「メリット」についても根本的に見直す必要があります。「行政の情報化」は進むが、「地域の情報化」はなかなか進まないのが実態です。

【3】 自治体で、情報化施策を進めていくためには、さまざまな「負担」に耐えて行かなくてはなりません。とりわけ、財政力の弱い自治体ほど財政負担は目に見える最大の困難です。先進的取り組みについては国の様々な補助、起債の制度があり、後年度負担も交付税措置などが準備されていますが、補助制度に定められた事業内容をソフト面でクリアしていくことは大変な負担です。
さらに、地理情報システム(GIS)などの負担を考えると、大型公共事業や第3セクターの運営に失敗し多額の起債をかかえた自治体が増加するなかで、さらに無謀な無駄づかいになりかねません。日限を限った政府の強制に乗らず、自治体の自主性と創造性が発揮される必要があります。

【4】 行政職員や住民の情報リテラシーも常々指摘されているところですが、自治体独自で現代の急速な情報化施策全体をリードできる職員を確保することは、町村にとっては極めて困難です。行政の情報管理を監視したり創造的な活用方法を提案することを期待されるNPOなどの組織も、まだまだ未成熟でその主体となる状況にはありません。同じく情報化の推進役となり、一方でその成果を享受すべき先端企業も地域格差があり、町村段階では極めて少ないのが現状です。

【5】 政府が強制的な姿勢を強めている市町村合併問題で、IT革命は住民の利便性を補完するかのように宣伝されていますが、合併したとしても過疎地や中山間地問題などは解消するわけではなく、しかも合併自治体での重点投資の矛先が中心部やIT関連整備にかかり、同時に、合併による「いっそう遠くて官僚的な『お役所』」になることが避けられないことからも、今以上に地域間格差が広がることが予想されます。

3.ほど遠い、住民のための「電子自治体・IT政策」

時の政権の、経済・産業政策として出てきた「IT革命」は、本来の国民生活、コミュニティの促進などの観点でなく出されてきており、内容は批判の強い公共事業の焼き直しにすぎないのでという、自治体関係者の疑問が広がっています。

(1) 強調される利便性と、投資ほどの効果が見えてこない地域情報化

【1】 ワンストップや在宅で様々の申請手続きが完了し、また、必要な情報が得られるとしたら確かに便利でしょう。政府の「アクションプラン」では、障害者や介護サービスへの利用も示唆しています。しかし、いま地域で必要とされている、介護保険料・利用料に自治体の独自助成の実施、特別養護老人ホームの建設、北部南部での養護学校建設、学校の30人学級実現と施設改善など、自治体として今すぐ実施すべき要求が山積しています。巨額の予算を投入して「アクションプラン」を実施するときに、単純に「便利」というだけで住民の理解が得られるのでしょうか。

【2】 関西文化学術研究都市の一部地域(精華町光台)において、民間企業も参加する新世代通信網パイロットモデル事業が総事業費約100億円をかけて実施されています。光ファイバーで300世帯を結んでの実験です。検証のテーマである「ライフスタイルの変化」として取り上げているのが、「キッズラン
ド→アニメや人形劇が幼児のお守り役」「カラオケハウス→ホームパーティ等でのおもてなしツール」「シアターD/M・ゲーム→家族だんらん」「ふれあいツールリビングプラザ・TV電話→地域コミュニティ形成の推進役」「時刻表、ショッピング情報→お出かけ前の重要チェック情報」「TV電話→子供の電話井戸端会議ツール」などというのですが、日々の暮らし・営業に危機感を持っている住民に、生活密着型の福祉や医療の改悪が続くなかで、巨額の予算をつぎ込む必要のある内容とは思えません。しかも、この地域では、診療所が少ない、保育所が少ないなどの声が出ているのです。

【3】 また、各自治体が開設しているホームページについても、京都自治労連の「ホームページの評価」では条例や予算についての、肝心の情報が得られないなど、観光客だけを対象にしているだけと考えられるものもありました。地域情報化について、住民生活に本当に役立つのかがあいまいなままの現状で、少なくとも自治体が「IT革命」に投資する予算の規模や、政策や計画がしめされているか、住民への情報公開と住民合意が求められています。

(2) 京都府内自治体ホームページ評価…自治体は「e−デモクラシー」に焦点を

京都自治労連の自治体情報化問題検討委員会は、現場での担当者や多くの専門家の意見などを踏まえて情報化の活用や問題点について検討してきました。
e−ビジネスやe−コマースなど、ネットビジネスが言われていますが、そうした経済活動への支援は国の責任も含めて必要なのですが、自治体がITを考えるときには、e−デモクラシーとも言うべき活用こそ本格的に検討される必要がある部分だと考えます。その点で、はじまったばかりの自治体ホームページについては、これからの充実を望む立場から、一度、素人的ではあっても一定の評価を行って、各方面でも考えてもらう材料を提供したいと考えました。
ホームページは各自治体の個性が発揮されればよいのですが、住民の方に役立つものとするには、最低必要な情報の掲載が必要と考えます。以下は、評価のガイドラインや検討委員会として行った評価点数と評価をしてみた総評です。

【1】 京都自治労連「自治体ホームページ」評価ガイドライン
京都自治労連「自治体ホームページ評価表」は、巻末の資料を参照下さい。


【2】 全体の評価点数合計での評価(2001年6月17日現在)
 *なかなか良いホームページ(30点以上)
        …該当自治体はありませんでした。
 *努力されているがもう一歩の工夫を(20〜29点)
        …最高は舞鶴市の28点で、木津町25点、、京都市24点、京都府22点、加悦町21点でした。
 *他市・他町も参考に専門家の技術的な助言も得て工夫を(10〜19点)
        …17自治体でした。
 *ホームページの役割を一から考え直して(5〜10点)
        …12自治体でした。
 *いっそ閉鎖したら?(5点未満)
       … 7自治体でした。
*なお、自治体ホームページ未開設自治体が、4自治体ありました。

 A 主に地域住民を対象としていると思われるホームページ…22自治体
 B 観光客等外部から来る人に焦点を当てていると思われるホームページ…
11自治体
 C どちらでもない中間的な内容であると思われるホームページ…8自治体

【3】 情報公開と自治体ホームページ
全体の評価ガイドラインの評価点数の合計最高点数は38点です。最高は、舞鶴市の28点で、全体の評価点数の平均は11.59でした。私たちのつくった評価ガイドラインの「他市・他町も参考に専門家の技術的な助言も得て工夫を」の低位に全体としてはあると思います。
今後、多くのところでリニューアルされて充実していくことは確実ですが、自治体によっては昨年から情報が更新されていないところもあり、行政情報化・地域情報化に対応した自治体の体制整備が必要なことも示しています。
また、ホームページを住民の方に活用してもらうことを想定すると、観光案内的な情報に限られていては、地域のことを考えてもらう材料になりにくい面があります。検討委員会では、行政の条例や規則、要綱なども載せること、自治体財政資料も分かりやすい形(例えば経年的な変化も含めて)で、住民の方に実態を知ってもらって地域政策づくりの資料となること、自治体がすすめている地域計画の意思形成過程(例えば審議会などでの議論の議事録なども)も掲載すること、などが求められると考えます。そして、双方向での意見集約ができる窓口もホームページにつくることが必要でしょう。規模の小さい自治体ほど双方向の議論に活用できるのではないかと考えられます。
住民の方の利便性から見ると、資料を写真のように掲載するPDFは、活用という点からは使い勝手が悪いとの声もあり、テキスト形式の掲載が望まれます。同時に、町内放送やCATVなどの音のメディア、自治体が発行する広報誌などの紙のメディア、などとの競合や二重宣伝ではなく、デジタルメディアの役割にふさわしいホームページ等の活用に関する検討がまたれます。
いずれにしても、多くの自治体がホームページを開設し運用を始めたことは、自治体政策を他市、他町に学ぶための道具としての活用が期待されます。環境問題、地域経済問題、行政運営等々自治体職員や住民自治の担い手としての、地域の人々が全国(インターネットでは世界の)の地方自治の発展のための経験や考え方、実践などの情報が幅広く手に入る条件が広がることは間違いないと思います。

4.情報化に対する、自治体の責務

(1) 自分の情報が「どのように使われ、それについて意見を言える権利」をどう守るのか

【1】 個人情報が電子化されることによってコンピュータのセキュリティーが問題となってきます。この分野で絶対に大丈夫という過信は許されません。従来、自治体のコンピューターはインターネットとは絶縁された庁内LANが主体でした。しかし、「e−Japan」「アクションプラン」の段階になると、電話回線などからの市役所とコミュニケーションをもつということは、悪意のある侵入者とも接触をもつことになります。
昨年10月、米マイクロソフト社(ワシントン州レドモンド)の本社のコンピュータにクラッカーが侵入し、開発中の、ソフトの設計情報を見られたという事件がありました。Windowsを開発した会社ですら侵入されるのです。昨年1月〜2月には、多くの省庁でホームページが書き換えられました。1月28日には、人事院近畿事務局のホームページの大部分が消去されてしまいました。また、メールなどを通じて広がるウイルス被害も続発しています。
地方自治体がこうした侵入者にどうして対応するのか深刻な問題です。

【2】 セキュリティー問題は、インターネットだけが問題なのでなく、直接従事する職員のモラルにもかかわってきます。コンピュータの記憶装置から直接データが流出することもあります。宇治市の住民基本台帳のデータが外部に流出した事件は、市がプログラム開発を委託した業者のアルバイト従業員が、データをコピーし、大阪府内のリストコンサルタント会社に持ち込み、名簿業者に転売されたという事件でした。市役所の基本的業務を民間委託することの危険性を象徴する事件です。宇治市では、緊急の事件対策を確立し「住民の自己情報コントロール権の侵害」と位置づけ、当面の緊急対策に1,000万円をかけました。
庁舎内のパソコンが机に放置されているということはないでしょうか。山城町では、庁舎からパソコンなどが盗まれ介護保険関連の個人データ1,836人分がパソコン内に残されていました。旧京都みやこ信用金庫のパソコンを清算法人が顧客情報を消去しないまま第三者に譲渡し、顧客情報が流出するなど、事件は後をたちません。

【3】 最近の報道では、ハードディスクをフォーマットしてもデータは消えておらず、廃棄パソコンからのデータ流失が続いていることが明らかになっています。個人情報保護条例をつくっても、自治体の廃棄パソコンやレンタルパソコンの機種交換などでデータが流失していく問題を本当にくい止められるのかなどの問題も出ているわけです。

【4】 行政のIT化にあたり、政府・自治体での個人情報がどのようにデジタル化されて、どのように活用されているのかを、国民・住民一人ひとりに明らかにされ、国民・住民が自己の情報をコントロール(意見を言う)できることを権利として確立することが非常に重要になってきました。その点での、法整備や考え方の整理はこれからと言う段階ですが、技術革新のテンポに合わせ整備され、また、その技術の使用はこうした条件が整備されて、はじめて開始されるというルールを確立することが必要ではないでしょうか。そうでないと、文字通り個人情報が売り買いされる社会が当たり前という、人権無視がまかり通ることにもつながってしまいます。

【5】 また、自治体職場でのIT化をすすめるにあたって、システムのセキュリティーチェックはもちろんのこと、様々な個人情報をはじめ住民のいのちと暮らしを守る自治体職員の責務とは何なのか、日本国憲法に立ち返って研修することが重要ではないでしょうか。最新の情報技術も、最終的には操作する人間の良心と責任感にたよらざる得ないというのが実際なのです。また、安易な民間委託・アウトソーシングをチェックするため、職場の労働組合の役割が大切です。

(2) 情報化社会になっても、住民が多様な手段で情報を手に入れられる実態をつくることが、自治体の責務

【1】 国内のインターネット利用者は、97年の570万人から2000万人を超える見こみで、3年間で4倍の伸びです(日本インターネット協会編「インターネット白書2000」)。しかし、京都市が行った今年2月の「インターネットの利用状況」アンケート調査によると、インターネットは、京都市内に暮らす人の41%が利用しているものの、58 %の人は「必要ない」などの理由で使っていないとの結果が出ています。個人情報の流出や、電子商取引に不安を感じる声も目立ち、これも当然のことです。

【2】 インターネットを使って行政情報を流すことが飛躍的に増えてきますが、「便利だから」から、インターネットでしか情報が得られないという状況にならないかが懸念されています。日本国憲法第14条は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、又は社会的関係において差別されない」としています。政府の「e−Japan」計画の目標数値でも普及率は6割程度であり、すべての人がインターネットの「恩恵」を受けるわけではありません。同時に、自治体職場でのパソコンの普及によって、仮に職員が市民に同じことを強要するようになっては大変です。情報通信技術を利用することは、必要ですが、「IT」は、あくまで道具でしかないのです。

【3】 災害発生時のシステムとして地理情報システムが注目されていますが、大規模地震などで第一に行動するのは地域住民であり、人の温かさが感じられるコミュニケーションなしに画面上の作業だけでは役に立ちません。自治体の仕事の主要な部分は現地に出向いて、現場で奮闘してこそ達成されるものです。コンピュータを使って仕事をする人も、そうでない人も、自治体職員の働きがい、生きがいが現場主義にあることを深く認識すべきであり、そうした仕事の体制の整備や、職員の仕事への姿勢を保障する研修などが求められているのではないでしょうか。

5.急速な情報化で苦悩する現場

これまで、住民基本台帳や税システムでは汎用コンピュータに職場からペーパーでデータを送る、少しすすんで、接続された端末で操作するというのがおおかたのパターンでした。電算化・OA化の促進などで、パソコンの初期の利用は、ワープロと同様に一台ずつが必要な机に配置されている程度でした。
しかし、府内の自治体では、既に一人1台の環境が実現した自治体が増えてきています。本年度内にそういう自治体は過半数となり、1〜2年のうちにすべての自治体で実現すると思われます。このようななかで、先行して一人1台の環境を実現している自治体の実態をみると、発生を予見した問題のうち、スムーズに解決に向かっていると思われるものや、依然として課題として残っているものに分化してきています。また、京都府や京都市、都市と町村など自治体の規模で大きな実態の違いが生まれています。

(1) 長時間労働とはけハケ口のないストレス…ネットワーク管理者の悲鳴

【1】 現在、セキュリティーの上でも電子化され凝縮された住民情報を、机の上のパソコンにしまっておくといった無防備な行為はゆるされません。庁内LANを配置して、文書金庫の役割を果たすサーバコンピュータで管理をするのが常識です。高度なリレーションデータベースの活用もこのシステムなしに機能しません。パスワードやICカードを使ったセキュリティーシステムもこれが条件です。このシステムの導入と管理で必要なのがシステム管理を行う人材です。

【2】 また、システム管理者は、庁内のパソコン利用に関して学習をすすめるリーダーともなり、おのずと保守管理とアフターサービス(ヘルプ)の役割を担うことにもなるでしょう。長年経験を積み重ねて来たシステム管理者は、「初歩的な質問や、問い合わせに怒ってはならない」「操作ミスなのに機材を修理に出したりしても指摘してはならない」なぜなら「職場にお願いすることや迷惑をかける場合もあるから」と言います。どこかミスがあれば、職場にも市民にも迷惑をかけるという思いで、外から想像するようなバリバリと仕事をするというより、持っている知識と体力を 生かして、神経を集中させ、トラブルにもかんしゃくを立てず我慢して対応するの がシステム管理者の姿でしょう。緊張が続く長時間労働で、VDT労働の基準に従 って休憩を取らない場合も多くなります。

【3】 各職場の仕事が集中するメインシステムでは、不具合はすべてシステムの責任となり、精神的苦痛は相当のものです。情報化室のシステム管理者に限らず、システム開発を担当する職場の職員にも同じような事態が発生しています。誰もが血の通った人間です。労働組合の所属にかかわらず、民間業者の派遣社員や嘱託職員も、そして現場のそれぞれの職場の職員も、一緒になって異常超勤をなくし、不具合の解消のため協力できる環境をつくる努力が必要です。

(2) 自治体の現場では

【1】 スムーズに解決の方向に向かっていると思われるもの
 1) 「文房具」としてのパソコンの使い方から派生するもの
程度の差はあるものの、配置されたパソコンはおおむね活用されています。すでに、一人1台がすすんでいる町村などでは、小さい組織なりのきめ細かいサポートや、職場内の助け合いが役立っていると思われます。使ってみると表計算などの利便性が認識され、加速度的に利用率が上がっている状
況もあります。また、ここ数年、パソコンに対する社会的認識が大きく変わり、「使えて当たり前」という認識が定着してきており、個々の職員の努力も大きいと思われます。
 2) セクハラメール、セクハラ壁紙、ゲーム等
セクハラの定義も社会的に認識が進み、パソコンによるそういう行為は個人が特定されるため、あえて職場でそのような行為を行う人は極めて少ないと考えられます。また、家庭にパソコンがある人も多くなり、職場のパソコンは「仕事の道具」という割り切りが進んでいるようです。

【2】 情報の管理、消失
いくつかのトラブルはあるが、バックアップシステムの整備や、個々の職員の管理意識の向上により、内部管理上の決定的なデータ消失は報告されていません。しかし、情報管理の手法には自治体により考え方や仕組みのばらつきがあり、考え方を含め交流を深めて整合を図っていく必要があります。

【3】 できる人、できない人への分化の問題
財務会計、人事関係など業務系の問題点として、これまでオフコンでやっていたことをパソコンソフトなどを開発し実施する段階で、問題が多発しているのは、規模の大きな自治体で見られます。一人1台の環境がすすんでいる町村では比較的スムーズに入っています。できる人、できない人の分化が顕
在化するのも、自治体の規模の違いがあるようで、大きな自治体ほど顕在化する傾向にあります。これは、導入への職場での合意・同意の度合い、職場民主主義や意志疎通などとも関わりがあるように思えます。

【4】 コミュニケーションの希薄化
庁内LANやメール交換などがすすむと、逆に職場での職員同士のコミュニケーションの希薄化が心配されていますが、行政情報化のすすんだ自治体で、ネット上でのコミュニケーションと、対面のコミュニケーションは自然に棲み分けが進み、メール等は有効に活用されつつあるように感じられました。


(3) いまだ大きな課題として解決を迫られていること

【1】 すべての職員に同等の環境は保証できない
職場環境が庁舎の状況や机の配置、古い椅子などばらばらで、OA労働に適合した環境にはなり得ていません。また、一斉導入でない場合、業務の負荷が違うため後で配置された職員に中古が回ることになり、感情的な軋轢なども感じらます。

【2】 情報化職場での民主的な職場づくりに気配りを
自治体職場でコンピューターの利用がすすむと、パソコンを使っていなければ仕事でないという風潮が生まれる場合があります。極端な場合、ローマ字打ちでなく、かな打ちをしていると遅れていると批判される場合もあります。コンピューターの設定でどちらのタイプにも簡単に変更できるのですから、そうしたことで仕事のやりにくい環境をつくる必要はありません。中途半端は知識から、思わぬところでテクノロジー・ハランスメントをしていないかお互いに反省してみてもいいでしょう。ワープロが好きという人
も、今では、ワードやエクセルに簡単に変換するプログラムもあるわけですから、お互いに共存できる道はあるのです。思い込みから、無理やりバソコン利用を強要すれば、それぞれの力量が損なわれる結果となります。

【3】 機器のスクラップ化、買い換えの負担増
2年前は最新の機器も、現在では容量・処理能力が不足し、例えばデジカメの普及による画像データの扱いが増えたこともあり、容量不足で急速なスクラップ化が進んでいます。リース期間を5年にすると、使っていない機器にお金を払い続けることになります。

【4】 健康対策、作業基準の見直し
パソコンの文房具化は使用者の状況を多様化させ、1日中ディスプレイを眺める専任作業者は少ないのですが、専任者の作業基準はできてもそれ以外の一般事務者の実態把握はほとんど進んでいません。また、外注などでデーター入力するケースの増加なども考えられ、委託で働く労働者も含めた「IT社会」での健康対策の早急な確立が求められています。

【5】 情報保護、管理の考え方
フロッピーなど外部記憶装置をすべて取り外し、生体(指紋など)認証を導入している自治体から、すべて職員の自覚まかせというところまで様々な実態にあります。
自治体でのインターネットの利用がすすみ、ネット上での施設予約や高度利用は、必然的に常時接続の状況を生み出します。求められるセキュリティのレベルも当然のこととして格段に上がり、経費も激増することになるでしょう。セキュリティは際限なく経費がかかる面もあり、必要最小限の範囲が特定しにくい実態ですが、すでに多くの事件も発生しており、そうした教訓もふまえた、自治体としてガイドラインの策定は急がれます。

【6】 庁内推進組織の機能強化
パソコンが入ってしまうと組織の活動が一息ついてしまう傾向がないでしょうか。情報化が本当に住民の立場で必要なのは、これからの地域情報化推進なのですが、基本として自治体が計画的で民主的な地域情報化計画や方針を未だもちえていないことが大きな問題です。

6.「電子自治体」づくりに対して住民と共同して点検活動をすすめよう

自治体における「IT革命」の現状は、「行政の情報化」がようやく軌道に乗りつつあるといったところです。また、インターネットの活用を軸にした「地域の情報化」施策については、ようやく一部の町村で試行が始まったばかりといえます。そのようななかで、「IT革命」による技術革新を、真に住民に役立つもの(=住民主体の「IT革命」をすすめるために)としていくために、次の点をしっかりと点検していく必要があると思われます。

(1) IT政策や方針に焦点をあてた、議会の開催や住民説明会などの開催を

【1】 私たちは、住民参加と自治に基づくIT化を願っていますが、これまでの動きを見る限り、住民不在・国民不在の計画推進と言わざるを得ません。住民の側からの提案を促進するための施策を、インフラ整備などと並行して行わない限り、地域に定着し地域に役立つIT化は望むべきもないのではないでしょうか。国民から支持される情報通信の発展のためにも、2005年度までの自治体の「IT政策」を明らかにして住民と一緒に考えることが必要です。事業内容、予算規模、具体的目標、事業効果、などを明文化して、知られていない様々な問題点を含めて、臨時の議会開催や住民説明会など、住民との論議が必要です。
 
【2】 平成9年に京都府は情報化推進化基本計画として、主に商工政策としての「ITバザール」などの計画を出していますが、今日のIT革命などの推進との関係で、府はどうするのかということは不明確になっています。市町村からは、「インフラの整備などについて、NTTなどの民間任せでなく、計画的な整備の全体像を市町村に示すなどのリーダーシップをとってほしい」という声が聞かれます。いずれにしてもどんどん情報化が進んでいくなかで、政府主導のままでは、京都府民にとって役に立つ側面を見逃し、財政状況が厳しいなかで二重投資など無駄を自治体が背負う問題が起こることも指摘されています。京都全体としてどう考えるのか、市町村や府民の意見を踏まえて、納得できる内容を示すよう京都府への要望を強める必要があります。

【3】 インフラ(通信回線)の整備は自治体の役割か?二重投資の危険性は?
放送と通信が一体化する「デジタル時代」を目前に控え、電話回線でも大容量の通信が可能になってきています。電線を利用した通信実験も政府の肝いりで始まっています。スケールメリットが高い都市部では官民入り乱れて様々なインフラが張り巡らされつつありますが、中小の町村ではどのインフラをメインに地域の環境を構築するのか、または、NTTの事業者責任はどう果たされるのかという課題をかかえています。高価な光ファイバー網を2重3重に投資し、そのインフラに載せる情報は貧弱極まりないという事態にしてはならないと思います。

(2) 自治体は情報化の本当の利便性を積極的に使う論議と研究を、そして、住民がITを住民主体に活用するための府民運動を

【1】 情報化技術の発達は、日本で遅れていた情報公開を前提とした、情報提供、行政への意見、手続き方法などの利便性を高めることが予想されます。しかし、住民の立場に立ったこうした技術を生かす方向は、住民との懇談や要求、住民の生活実態を無視してすすむわけではありません。地方自治の本旨の住民自治の発展に、こうした技術をどう生かすのかという研究もほとんど見られないのが現状です。本来IT革命・電子自治体構想の柱にこの問題がすわる必要があるのではないでしょうか。
当面、広がり始めたホームページを活用することが必要で、自治体情報の公開のために、ホームページの掲載基準も検討し、少なくともこれこれの情報は発信しようという呼びかけや要求を強める必要があります。

【2】 情報技術を住民生活に役立てるという目標では、例えば、視力障害者がテキストファイルを音声にして読みとるソフトの開発なども報道されていますが、こうした身体機能を補完するパソコンの普及を、自治体として援助するなど、具体的に役立つことに施策の重点を置き、着実に住民生活に役立つ部分を拡大することが必要です。

【3】 地方自治の発展のために、例えば、農産物などこの地域でしかという特産物などを情報化に載せて、地域づくりに生かす運動(メールマガジンの発行やホームページづくりは住民の手でできる)をすすめる必要があります。そうしたとりくみを通じて、自治体への要求を強め、地域から力をつけることが、政府や経済界の一方的なIT革命の押しつけでなく、ITを住民の手にとりもどし、自治の力を高めるものになります。私たちは、「ITを住民の手に府民運動」を呼びかけます。
同時に、地方自治に関する住民側のネットワークが広がることを願って、そうした情報ネットづくりも推進しようではありませんか。

(3) 住民基本台帳の全国ネット実施期限を延長または、白紙にもどして国民的議論をすすめるよう国に求めよう

【1】 政府のすすめている住基の全国ネットは、「住民基本台帳カード」(ICカード)発行とそのカードの高度利用など、住民生活には「利便性」のみが宣伝されていますが、実感を含めほとんどの国民がイメージも持っていません。だからこそ、とんでもない管理社会を誕生させるのではという心配はぬぐい去れません。
どんな個人情報が、どのように使われるのかを住民に明らかにし、「住民基本台帳ネットワークシステム」の導入と、個人情報のセキュリティーが危惧される「住民基本台帳カード」の活用について、強制はしないという大前提のもとに、Jネットの実施期限を延長して、特別国会などでの集中論議を含めた国民的議論が必要ではないでしょうか。全国ネットに結ぶと、住民情報を提供する側になる地方自治体も、今、積極的に意見を言うべきではないでしょうか。
 
【2】 国民的な議論のなかで、「住民の、自らの自己情報をコントロールする権利」を守るためのルールと、個人の情報活用についての住民への通知を義務づける(住民の拒否権を認める)、情報問題のチェックに関する第三者機関の設置、情報の保護と活用のガイドラインの設定と法律化などは、世界最先端の高度な情報化 社会をつくるという政府が行うべき最低限の前提ではないでしょうか。

(4)「IT」技術で「するべき施策」と「してはならない施策」、持ってない人への支援

【1】 IT革命で喧伝されていることは、テレビ電話やインターネット受診、ネット通販の拡大など、住民の利便が拡大するなど便利になるということばかりです。しかし、個々の住民は本当にそのようなことを望んでいるのでしょうか。テレビを介した診療で、薬は郵便配達、このようなものは地域医療に求められているものとは正反対です。生活圏の広域化とともに過疎化、少子高齢化が進むもとで、ITを利用して「代替できるもの・せざるを 得ないもの」と、「できないもの・してはならないもの」との切り分けを、再度点検し直す必要があります。IT技 術で「できる」ことと「するべき・求められている」こととは、当然イコールではないのですから。

【2】 住民が真に求める「IT施策」は何かを明らかにして、むしろ、地方自治体は「できないもの・してはならないもの」をマンパワーで保障する体制整備こそ求められるのではないでしょうか。さらに、広域合併で損なわれる地域の様々な機能をITで代替させるということは、厳しいチェックが必要です。
同時に、ITでしかサービスが受けられないなどの、逆の不便・不公平が生じない業務体制の保持も考慮されなければなりません。

(5) ITの地域産業への活用は、地域の要望から計画と実行を

【1】 e−ビジネスやe−コマースなど、ネットビジネスが華やかに喧伝されています。しかし、身近なところでインターネットを利用して経営が拡大した、良くなったといった話はなかなか聞こえてきません。情報技術は、それ自体が何かを作り出すわけでなく(パソコンとかソフトは別として)、製品の流通や調達の方法、ルートを変えるものでしかありません。ネット流通に適した製品といわれる本やCD(品質が同じで個体差がない)の通販についても、ほとんど利益は上がっていないともいわれています。ITによる景気拡大の本家本元であるアメリカでも、景気の後退とともにIT牽引車論に疑念が呈されていると言われています。世界に通用する「オンリーワン製品」を持つ企業ならともかく、地域の中小企業がITによりただちに活性化すると考えるのは早計であり危険です。もっと地に足のついた活用法を考えていく必要があるのではないでしょうか。

【2】 中小企業や農林漁業に携わる、地域産業の主体となる人たちの要望が、生かされていないのではないかという実態の矛盾が現れているように思います。ここでも、画一的・一律的な政府の方針に、無批判に従っていくことに矛盾があるのではないでしょうか。


(6) 住民検診にもVDT検診を加えるなど、府民運動に自治体労働組合が積極的に役割を果たそう

【1】 自治体情報化問題について、自治体労働組合としての役割は大きいと考えられます。なによりも、行政内部の情報化が先行するなかで、住民への影響などをいま考えなければならない立場に置かれているからです。また、自治体情報化が本当に住民の役に立つのかどうかは、主体となる住民の意見や要求が反映されなければなりません。住民交流会やシンポジュウムを行ってそうした「声」を組織することは重要な課題です。
同時に、情報化社会に対する警鐘も含め、住民監査委員会、情報化問題NGOなど、住民運動としての一致点に基づく共同を模索しなければなりません。こうした運動を広げるためにも、自治体労働者や労働組合が情報のホームページを立ち上げ、住民と自治体労働者のネットワークを広げることに挑戦しようではありませんか。

【2】 現状では、行政情報化が進みつつある現状ですが、すでに述べてきたように、自治体職場が情報化をすすめることによる労働の変化が、自治体の本来の役割から見てどうかということが問われる事態もすすむでしょう。また、庁内LANなどを設定することにより、担当部署での異常超勤や、使える・使えないだけを基準にしたハランメントは、職場の民主的な論議を阻害し、公務能率を悪くすることになってしまいます。情報化推進の1つの目的とされている行政業務の効率化という課題自身も実践できなくなってしまいます。
自治体情報化をめぐって、庁内的にも労働組合の果たす役割が非常に重要です。庁内の情報化についての労使協議、職員研修、職場での協議と合意を義務づけ、自治体労働者の権利、研修を受ける権利などを明文化して示すことが、職員の情報化に対するリテラシーを高めるためにも不可欠です。

【3】 情報機器の氾濫や液晶画面と対面する労働が大幅に増えている情報化時代に対応して、職場の労働安全衛生の問題、IT労働基準(自治体としての最低限の規制)が行政情報化の基盤整備と平行して確立される必要があります。また、政府が世界最先端のIT国家をめざすとしているなかで、ITに関わる派遣労働者や不安定雇用労働者が家内工業的にデータの入力などのVDT労働をやらされていく実態も広がっています。自治体は、住民の健康を守る責務があり、例えば、住民検診にもVDT検診を加えるなどが、情報化社会に対応した施策に必要ではないでしょうか。